知らぬが仏

洗面所に取り付けてある扉付き収納棚に浴用タオルがストックされていた。ほとんど何かの景品で、薄っぺらいのもあればまあまあ厚みがあるのもある。団体名が印刷されていたり社名が柄織りされている。

棚は、脚立に乗らないと届かない高さ。洗面所を改装したのはそれほど前じゃない。高額な乾燥機能付きドラム型洗濯機も設置されていて、羨ましく思った。

それにしても、だ。身長150センチメートルにも達していない高齢主婦が取り仕切る洗面所の、こんな高い位置に棚を取り付けるセンスのなさというか、気の利かなさというか、思いやりのなさには呆れるのを通り越して笑えるわ。

タオルは一枚一枚包んだりくるんであったであろうビニールやのし紙が外されて、真新しいまま黄ばんでいた。

洗い替えのストックのつもりできれいに並べてそのまま忘れ去り数年過ぎたのだろう。

それらをまとめてドラム型洗濯機に放り込んで「わたし流」コースをスタートさせた。

おととい父が教えてくれたのだ。

電源ボタンを押したら「わたし流」ボタンを押して『54』と表示されたら洗剤を投入すればいいと。

54分後にタオルの洗濯が終了する。

その父がせっせと干してたたんだタオルが、洗濯機の少し上の位置に取り付けられた棚に無造作に並んでいる。

せっせと洗濯したにも関わらず、どれも薄く黒ずみゴワついている。

昨夜父から再び洗濯機の使い方を聞いた後に櫓洗浄をした。おととい洗濯機の扉を開けた時に、ツンとカビの匂いがしたのだ。

父は洗濯機も時々洗わなくちゃならないなんて知らないから、せっせと洗濯したタオルが黒ずんでいるのだ。

今日の夕食材料を買いに出た時に櫓洗浄剤も買って帰った。

櫓洗浄は一晩中かかり、翌朝起きてもまだ終わっていなかった。

洗濯は私がしておくからと言って父を送り出した。

棚の黒ずんだタオルを使って棚の扉や床や廊下を拭き上げた。

玄関のたたきまで拭いてゴミ袋に放り込んだ。

洗って干したタオルは午前中で乾いた。かすかに洗剤が香る。櫓洗浄の効果か。

それらを父がするのと同じようにたたんで、洗濯機の少し上の棚に並べた。

父はおそらく、何も気づかない。そもそもあんな高い棚の中に真っ新なタオルがストックされていたことなど知りもしないのだ。

知らぬが仏なのである。